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〜南西諸島で見られるシオマネキ類について〜




オキナワハクセンシオマネキ
オキナワハクセンは最もよく見られる。
後方はメヒルギの苗(奄美大島、9月)

シオマネキの楽園

北の奄美諸島から南の八重山諸島まで、南西諸島各地の河口干潟では、実に多様なスナガニ類がみられますが、 特にここで紹介するシオマネキ類は、その独特の姿や色彩、また行動から、干潟の中でも目立つ存在と言えます。
シオマネキ類は、九州以北においても2種(シオマネキ、ハクセンシオマネキ)が生息していますが、 南西諸島では、その2種を含め9種内外ものシオマネキ類を見る事ができるといわれています。
ただ、当然の事ながらどこの干潟へ行っても全ての種類が見られるというわけではなく、 冬季の気温や、底質・植生などの生息条件による棲み分けにより見られる種類は変わってきます。
つまり好む環境が多く存在する種(ヒメシオマネキ、オキナワハクセンシオマネキ等)は個体数、 生息ヶ所ともに多くなりますが、南西諸島では限局した地域のみに生息する種(シオマネキ)や、 生息ヶ所は多いが、個体密度の低い種(ルリマダラシオマネキ)などもみられます。
生息区域は、汽水域および付近の海域に多くみられる傾向にあり、完全な淡水域ではまず見られません。
種類によっては外洋に面する海岸などでみられることもありますが、そのような場所はあまり多くはありません。
これは、底質などの面が多様な河川河口部は、シオマネキ類の好む環境が多い為だと推測されます。
逆にそのような環境さえあれば、全くの淡水でない限り、塩濃度には広い適応力があると考えられます。
またシオマネキ類は、他のスナガニ類と同じように、幼生を海中に放出し、 幼生は、一定期間浮遊生活を送った後着底し成長するといわれています。
この事は、幼生が海流に乗って他の地域へと拡散していく可能性を示しており、 着底先の環境次第では今後、分布の拡大も充分にあると考えられます。
特にベニシオマネキはその傾向が強いようで、南西諸島以外でも、 小笠原諸島のような太平洋上に浮かぶ孤島ですら、小規模のコロニーながらその姿をみる事ができます。

ヒメシオマネキ
ヒメシオマネキは幅広い環境で見られる(奄美大島、9月)

環境による棲み分け

1)底質
シオマネキ類は前述のように、同じような環境に全ての種類が入り乱れてみられるのではなく、 同じ種類がある程度固まって、コロニーという形でみられる場合が多くあります。
これはその生息環境の好みによって、棲み分けがなされているからであると考えられています。
特に底質による棲み分けは顕著であり、種類によってはかなりシビアな条件を要求すると思われるものもあります。
つまりこの事は、干潟の規模よりもむしろ、底質の多様度によって、 そこに生息する種類数がほぼ決まってくる事を意味しています。
たとえ大きな干潟であっても、均一な底質であるならば、限られた種類のシオマネキ類しか、 そこには棲めない事になります。
逆に砂質から軟泥まで多様な底質を持つような干潟では、多くの種類が見られますが、 異なる底質ごとに、それを好む種類がまとまってコロニーを形成するため、 パッチ状または帯状に、それぞれの種類のコロニーが整然と分かれているケースもしばしばみられます。

下に種類ごとによくみられる底質の目安を大まかに示します。<図1>
南西諸島で最も多くみられる種であるヒメシオマネキとオキナワハクセンシオマネキは、 広い環境に適応していますが、慨してヒメシオマネキは砂が少し入った軟泥質で、 オキナワハクセンは砂質または砂の多い泥質でよく出現し、両種とも開けた干潟を好むようです。
このような場所は南西諸島では、河口部を中心に元来よく見られる環境であり、 この両種が多くみられる要因と考えられるでしょう。
特にヒメシオマネキは、基本的には軟泥地に多くみられるものの、 シオマネキ類には珍しく、必ずしも底質に拘らない種であるようで、各地の干潟でみる事ができます。
その他の種類についてみてみると、泥質を好むと思われるものにリュウキュウシオマネキと ヤエヤマシオマネキがあります。
この両種はほとんど同じ環境で出現する事もありますが、ヤエヤマシオマネキは開けた場所で、 リュウキュウシオマネキでは、林内などの薄暗い場所でみられる事が多いようです。
比較的固くしまった泥質の場所ではベニシオマネキやシモフリシオマネキがみられます。
こういった底質の環境はマングローブ群落によって形成される事が多く、 ベニシオマネキは多少岩などが混じるマングローブ林外縁部で、 またシモフリシオマネキはマングローブ林内部の薄暗い場所でみられることが多いと思われます。
一方、オキナワハクセンとともに、砂質を好む種類にルリマダラシオマネキがありますが、 これは少し好みがうるさいとみられ、少し泥混じりの固い砂礫質で、 サンゴ片などの石灰質の石が点在するような場所に、生息は限定されるといわれています。
これは、”岩上の付着藻類を食べる”というこのシオマネキの習性から来ているのかもしれません。
ルリマダラシオマネキが好んで利用するこのような場所は、あまり他のシオマネキ類が利用しない場所であり、 砂質における適応範囲の広いオキナワハクセン以外の種類とは、 同時にみられる機会は少ないのではないかと思われます。

オキナワハクセンシオマネキ
<図1>底質による南西諸島産シオマネキ類の棲み分け

2)高低差
底質とともに、シオマネキの生息に関する重要な因子と考えられるものに、高低差があります。
シオマネキ類全体としては、高潮線から低潮線付近にかけて多くみられますが、 その中で種類ごとに好む高さがあるようです。
高潮線付近を好むものとしては、オキナワハクセン、ベニシオマネキ、シモフリシオマネキなどがあり、 これらの種類は、完全に潮が引いて巣穴付近が陸地になったあと、地上へ出てきます。
オキナワハクセンなどは、干潟の一部が丘状に盛り上がった部分などに集中的にみられる場合もあります。
シオマネキ類以外のスナガニ類では、ツノメチゴガニなどが同じような性質があります。
ヤエヤマシオマネキやリュウキュウシオマネキは、生息域にある程度の幅があるようですが、 オキナワハクセンなどの生息域よりは、少し低い場所に多いようです。
一方、低潮線付近を好む種類としては、ヒメシオマネキがあります。
これらは高潮線付近を好む種とは違い、特にヒメシオマネキは少し潮が被っているくらいから、 積極的に出てきて行動します。
これは、同所的に見られる事が多いフタハオサガニなどとも共通する性質です。
この為、もし護岸などで干潟の高潮線付近がなくなってしまうと、オキナワハクセンなどの種は少なくなり、 低潮線付近を好む種類のみしかみられなくなってしまうという事もあり得るわけです。

ルリマダラシオマネキ
”干潟の宝石”ルリマダラは底質の好みがうるさいといわれる。(奄美大島、9月)

温度による生息限界と分布

南方系の種類が多いシオマネキ類の分布に於いて、 冬季の気温低下は非常に大きな制約要因である事は疑いようがありません。
たとえ幼生が黒潮に乗って流れついたとしても、越冬できなければ定着には至らないわけです。
現在のところ、シオマネキとハクセンシオマネキ以外の種では、多少のばらつきはあるものの、 九州と南西諸島との間に分布の北限があるものがほとんどのようです。
また、分布の限界が近づくほど、生息個体数は減少する傾向があるようです。
<表1>に本土産を含む各種の日本国内での分布域を示します。

注:この分布表は、筆者自身の確認と、信頼できる伝聞とにより作成したものです。
よって、既存文献等に示されている分布とは若干異なる場合がありますがご容赦ください。

<表1>日本産シオマネキ類の分布概要
オキナワハクセンシオマネキ
Uca (lactea) perplexa
奄美大島以南、南西諸島に広く分布。
奄美以南では普通種だが、都市化が進んだ地域では減少傾向か?
ハクセンシオマネキ
Uca (lactea) lactea
紀伊半島和歌山県側〜瀬戸内海沿岸、四国沿岸、有明海を含む九州沿岸に生息地が点在。
三重県、静岡県にも少数が飛び地分布。南西諸島に於ける分布は不明?
ヒメシオマネキ
Uca (vocans) vocans
種子島以南、南西諸島に広く分布。九州本島には分布せず?
奄美大島以南では生息数も多いと思われる。普通種。
ミナミヒメシオマネキ
Uca (vocans) pacificensis
八重山諸島に分布するといわれるが、
情報不足の為詳細不明。
ルリマダラシオマネキ
Uca tetragonon
奄美、沖縄、八重山諸島各島。
奄美大島以南の島々にはいると思われるが、沖縄島以北での生息密度は低い。
ヤエヤマシオマネキ
Uca dussumieri
奄美大島以南の各島に分布。普通種。
リュウキュウシオマネキ
Uca coarctata
沖縄島以南〜八重山諸島。
八重山は多いが、沖縄島では少ないと思われる。
シオマネキ
Uca arcuata
紀伊半島和歌山県側、徳島、高知各県沿岸及び九州沿岸に生息地が点在。
有明海周辺および宮崎県沿岸には特に多い。沖縄島にも少数が分布。
シモフリシオマネキ
Uca triangularis
沖縄島以南〜八重山諸島。沖縄島では少ない。
全体的に生息密度は低いと思われる。
ベニシオマネキ
Uca (chlorophthalmus) crassipes
種子島以南、南西諸島各島。小笠原諸島にも分布。

ベニシオマネキ
ベニシオマネキはマングローブ林縁部に多い(沖縄島、5月)

まとめ

このように、多くの種類のシオマネキがみられる南西諸島ですが、 シオマネキ達の将来の展望は決して楽観できる状況ではありません。
シオマネキ達の住処である河口域から内湾にかけては、このサイトでも再三述べているとおり、 最も人間活動の影響を受けやすい場所です。
工業、家庭排水による水質汚染はもとより、河川上流域の開発による南国特有の赤土の流出により、 河口域の底質が一変して、シオマネキ等が棲めなくなってしまった場所もあります。
皮肉なことに、人間活動により河口部に泥が堆積し、 軟泥を好むシオマネキ類が増えたという場所もあるようですが、 そこに棲む生物の構成が変わってしまったという事を考えると、たとえ一部の生物が数を増やしたとしても、 それは決して喜ばしい事とは思えません。
ただ、最近水質が改善しつつある河川もあるようですので、 もしも、今後水質だけにとらわれず、底質などもトータルで改善されていけば、 人間が過剰に手出しをせずとも、一旦姿を消した生物達が、自然に海から戻ってくることも可能だと思います。
しかし残念なことに、流入河川の水質が改善されても、干潟の特殊性として、遠浅なため開発がしやすく、 現在でも埋立て工事により貴重な干潟が失われつつある状況は続いています。
本土では諫早湾の干拓があまりにも有名ですが、規模は違えど南西諸島でも干潟は失われつつあります。
干潟そのものがなくなってしまえば、当然そこに住む生物達は生きてはいけません。
一度失われた環境を戻すことも意味のないことではないのですが、 それよりもむしろ、今ある状態をできる限り維持することが必要なのではないかと思います。
陸から海への緩衝域である汽水域。ことさら浄化機能を持つ干潟を良好に保つことができなければ、 その干潟を構成する要素の1つであるシオマネキ達も、いずれはいなくなってしまうかもしれません。
このような状況を考えると、どうしても悲観的な結論ばかりが浮かんできてしまうのですが、 今日も懸命にハサミを振りかざしているであろうシオマネキ達の姿が、 いつまでも亜熱帯の空の下でみられる事を願うばかりです。







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