日本のオカヤドカリ




オカヤドカリ
ナキオカヤドカリ(小浜島、2004.12)

オカヤドカリの分布と生息限界 〜子供達は黒潮に乗って〜

日本国内では、ヤシガニ属1種を含め、7種のオカヤドカリ類が確認されているようです。
オカヤドカリ類は全ての種が熱帯、亜熱帯の地域に分布しており、日本はその分布域の東アジアにおける北限に当たります。
その為、日本における分布の中心は、やはりトカラ列島以南の南西諸島となっています。
しかし、それ以北の地域でも、ムラサキオカヤドカリを中心にナキオカヤドカリ、オカヤドカリも確認される事があります。
他の項でも触れていますが、南九州、四国南岸、紀伊半島などの南日本では、 本来は温帯域でありながら亜熱帯域に近い生物相が見られます。
これは、暖流である黒潮の存在に拠るものですが、 <図1>に示すように、 オカヤドカリ類も例外ではなく、これらの地域では南西諸島などで放仔された幼生が、黒潮に乗って流れ着いているものと推測できます。
オカヤドカリ類の場合、ゾエア幼生は放出された後に変態を繰り返し稚ヤドカリとなって上陸するわけですが、 ゾエア幼生放出から、T〜X期までのゾエア期を経てグラウコトエ幼生(デカポディド)に変態し着底するまでの期間は、実験ではナキオカヤドカリで16〜19日、ムラサキオカヤドカリで17〜23日、 オカヤドカリで25〜38日であると言われています。(※1,2
つまりこの期間が供給源と幼生到達点との距離を決定づけると言う事になるのかもしれません。
机上の空論ではありますがこれについて考えてみると、実際には海流は一定ではないのですが、黒潮本流の流速は2〜4kt程度だと言われていますので、 移動速度が平均2ktだとしても、浮遊期間が最短のナキオカヤドカリでも16日あれば1400km以上は移動できることになります。
東京-沖縄島間が直線で1600km程度ですから、理論上では幼生は上手く海流に乗ればかなりの距離が移動できる事になり、 この事からも、これら九州本島以北でみられるオカヤドカリ類の供給源のかなりの部分がトカラ以南の南西諸島(場合によってはそれ以南のアジア太平洋地域)であろう事が伺われます。
ただ、オカヤドカリ類が通年そこに生息できるかどうかは冬季の気温に左右されるために、これら越冬限界ギリギリの地域においては、 その年ごとに越冬できるかどうかは変わってくるようです。
それ以北の地域においては、たとえ幼生が流れ着き、うまく上陸を果たしたとしても、 越冬はまず不可能であり、無効分散(死滅回遊)となっていると思われます。
しかし、他の生物の場合と同じく、今後の全世界的な温暖化の進行状況によっては、 さらなる分布域の北上もあり得るのかもしれません。
より南方系のサキシマオカヤドカリ、オオナキオカヤドカリ、ヤシガニ等については、 分布の中心は南太平洋地域であり、南西諸島においてもその生息数は決して多いものではありません。
尚、コムラサキオカヤドカリについては、適した生息条件が限定的なため、温度的な要因だけではなく、 分布も生息環境に影響を受けている可能性もあると思われます。








ナキオカヤドカリ、上陸後間もない個体。(沖縄島、2004.10)





<表1>日本産オカヤドカリ類の分布概要
(仲宗根, 1983を元に改変)
ナキオカヤドカリ
Coenobita rugosus
トカラ列島以南の南西諸島、八丈島以南に広く分布。
高知県、和歌山県南部でも確認されているが無効分散の可能性がある。
ムラサキオカヤドカリ
Coenobita purpureus
トカラ列島以南の南西諸島、八丈島以南に広く分布。
奄美〜沖縄島にかけては特に多く、分布の中心とみられる。
和歌山県南部、四国、九州でも少数が越冬し、大分県でも見つかっているがより以東にもいる可能性がある。
オカヤドカリ
Coenobita cavipes
トカラ列島以南の南西諸島に広く分布。
小笠原諸島でも見られる。前2種よりは個体数少ないが普通種。
コムラサキオカヤドカリ
Coenobita violascens
沖縄島以南に分布。
生息地は限定的だが、よく言われているほど稀種ではない。
オオナキオカヤドカリ
Coenobita brevimanus
宮古群島、八重山群島、稀に沖縄島。
数は多くはないが、宮古島以南ならば普通に見られる。
サキシマオカヤドカリ
Coenobita perlatus
石垣島、黒島、小笠原諸島あたりでは発見の記録があるが、
本来南太平洋域を主産地とする種で国内では稀種であり、南鳥島等を除けば再生産できているかは疑問。
オオトゲオカヤドカリ
Coenobita spinosus
小笠原諸島産の過去の標本を同定した記録(※3があるが、情報不足。遇来種の可能性が高い。
ヤシガニ
Birgus latro
奄美大島以南の南西諸島、小笠原諸島。
沖縄諸島以北では稀と思われる。

オカヤドカリ分布図

<図1>日本産オカヤドカリ類の推定生息限界と黒潮
”白い地図工房”の素材を一部加工して使用しています。(著作権:白い地図工房)
2006.09一部修正しました。



<引用文献>
(※1 沖縄県教育委員会文化課編,1987.あまん-オカヤドカリ生息実態調査報告-.緑林堂出版
(※2 Yukio Nakasone,1988,Larval Stages of Coenobita purpureus Stimpson and C.cavipes Stimpson Reared in the Laboratory and Survival Rates and Growth Factors of Three Land Hermit Crab Larvae(Crustacea:Anomura), Zoological science,5(5):1105-1120
(※3 朝倉彰,2004.ヤドカリ類の分類学、最近の話題. 海洋と生物, 26(1):83-89










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