オカヤドカリの見分け方




系統樹と顆粒状突起

ムラサキオカヤドカリ

<画像4>ムラサキオカヤドカリの鋏脚。この個体では8個の斜行する顆粒状突起(斜向顆粒列)がみてとれる。

ここまでは、オカヤドカリについて主として色による比較的簡易な同定法 を述べてきましたが、色だけに頼っていると色彩変異や小型個体などではやはり同定 は迷ってしまうものです。
ここでは、少し視点を変えてオカヤドカリ類の脚部(特に左鋏 脚)の顆粒状突起(ブツブツ)にも注目して話を進める事にしましょう。
オカヤドカリと1口に言っても、世界中に約15種類あると言われています。
日本で見られる可能性があるものは前述の通りヤシガニを含めそのうち7種類程ですが、 進化の過程で主に4つのグループに分けられています。<図2>
このうちヤシガニ属を除いた日本産オカヤドカリ属の3グループについて、 左鋏脚の顆粒状突起を中心に見ていきます。
より確実に同定するためには、オスでは第5脚底節の生殖器など普段殻の中に隠されている部分の形状も 重要(※5と言われていますが、他のいろいろな要素を細かく見ていけば、 ヤドカリをホルマリン固定したり殻から引き摺り出す事をしなくても同定することは可能だと思います。
尚、グループ名についてはいずれも便宜上の名称です。

オカヤドカリ進化系統樹

<図2>オカヤドカリ科進化系統樹
(※1に掲載のものを参考に一部改変)


1.オオナキオカヤドカリ型
オオナキオカヤドカリはオカヤドカリ属の中では、起源である海産ヤドカリの形態的特徴を色濃く残しており、 ヤシガニと共に眼柄断面が特徴的な形態(円筒状)であるため同定は容易でしょう。
また、真上から見た眼柄は、ほぼ真っ直ぐにみえます。
鋏脚の形態は丸く、他種に比べ相対的に大きい。掌部の顆粒状突起は上部を中心に見られるが細かく、あまり隆起せず、 掌中央部ではほとんど滑らかとなります。
斜向顆粒列は本種ではみられません。<画像5>
発音機能については、本種は持っており、危険を感じた際等には鳴く事があります。

オオナキオカヤドカリ

<画像5>丸みを帯びたオオナキオカヤドカリの大鋏脚。斜向顆粒列はみられない。

2.オカヤドカリ型
日本には主にオカヤドカリ、コムラサキオカヤドカリが棲息します。
このグループも、オオナキオカヤドカリと同じく鋏脚掌部に斜向顆粒列はみられません。
ですが、顆粒状突起は粗く、はっきりとしており、下側の一部を除いてほぼ掌全体にみられます。
眼柄はオカヤドカリ及びコムラサキオカヤドカリでは側扁するものの、ナキオカヤドカリグループほどではなく、 先端にかけてやや先が細くなる形態となるのに対し、オオトゲオカヤドカリではより側偏しナキオカヤドカリグループに近い形態となります。
真上から見た眼柄は、次項ナキオカヤドカリグループ同様、やや外側に湾曲したようにみえます。
歩脚の指節部が細長いのも特徴です。
発音機能については、このグループは持っていません。
オカヤドカリとコムラサキオカヤドカリは生時の色彩がほぼ異なるものの、形態は非常に酷似しているため、 退色した標本などでは同定はやや困難ですが、左鋏脚掌部下縁の形態、 雄の第5脚底節突起基部の縦走・斜走小溝の有無での同定ができるとされています(※2
しかし、第5脚による同定は生時には観察しにくいため、鋏脚先端部の色彩による同定法(※3を第1選択とし、鋏脚形態による同定で確認するのが一般的だと思います。
また、第2触角の色彩で判別できるとするwebサイト(※4も見うけられますが、成体ではある程度指標になるものの、 オカヤドカリ若齢個体では第2触角がコムラサキオカヤドカリ同様に赤い場合もある為、若齢個体の同定指標としてはその点の留意が必要です。
オオトゲオカヤドカリについては、トゲ状の顆粒状突起に着目すれば、ほぼ同定で迷うことはないでしょう。

コムラサキオカヤドカリ

<画像6>コムラサキ鋏脚。
やはり斜向顆粒列はない。

オカヤドカリ

<画像7>オカヤドカリの眼。
眼柄は先細り。

2-a.オカヤドカリ
左鋏脚掌上部に斜向顆粒列を持ちません。
鋏脚掌部下縁のほぼ中央が突出します<画像8>
2-b.コムラサキオカヤドカリ
左鋏脚掌上部に斜向顆粒列を持ちません。
鋏脚掌部下縁はなだらかな直線状に湾曲し、最大突出部は掌中央よりも後ろにあります<画像9>
2-c.オオトゲオカヤドカリ
左鋏脚掌上部に斜向顆粒列を持たないが、鋏脚を含め脚部の顆粒状突起はトゲ状で大きく、 鋏脚掌部上縁には淡色の剛毛束列があります<画像10>(※5
前2種と比べ明らかに脚長が長いが、特に左第2歩脚では相対的に前節が短い(※5ために指節は長大に見えます。<画像11>
また、前甲長が同サイズの他種と比べ左鋏脚は小さめです。

オカヤドカリ

<画像8>オカヤドカリ鋏脚掌部下縁は
ほぼ中央が突出。

コムラサキオカヤドカリ

<画像9>コムラサキ鋏脚掌部下縁は
直線状に湾曲。

オカヤドカリ

<画像10>オオトゲ左鋏脚。
顆粒状突起と上縁の剛毛束列が目立つ。

オカヤドカリ

<画像11>オオトゲ左第2歩脚。
前節は短く丸みを帯びる。




3.ナキオカヤドカリ型
日本にはナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、サキシマオカヤドカリが棲息します。
眼柄はオカヤドカリグループよりも更に側扁し、眼の部分が上下に太く大きくみえます。
このグル―プは左鋏脚掌上部に5〜8個程度の斜向顆粒列<画像4>を持つのが共通の特徴で、 斜向顆粒列以外の顆粒状突起自体もはっきりとしている種類が多いようです。
またこのグループも、発音機能を有しています。
このグループの同定のポイントは、酷似したナキとムラサキを上手く同定できるかという事に尽きます。 通常は顆粒状突起を見ずとも、再三述べている眼柄の下側の暗色斑の有無で容易に見分けられますが、上陸1年未満程度の大きさの場合、 両種の判別は困難である場合があります。これについては次頁に譲ります。
一方ムラサキオカヤドカリの老齢個体では、眼柄下側が暗色となる場合があるのですが、その場合ナキではあり得ないような巨大なサイズである事が殆どで、迷う事は少ないでしょう。
また、ムラサキオカヤドカリには稀に赤〜オレンジの色彩変異も存在(※2,※7するようですが、 この場合のサキシマオカヤドカリ等との同定は顆粒状突起の色、分布を指標にするとよいでしょう。
尚、アカツキオカヤドカリ(C.pseudorugosus)(※5,※6もこのグループに含まれると思われますが、未だ日本国内からの正式な報告はないようです。

サキシマオカヤドカリ

<画像12>鮮紅色の体躯と白色の顆粒状突起が見るものに強い印象を与えるサキシマオカヤドカリ。

3-a.ナキオカヤドカリ
左鋏脚掌上部に斜向顆粒列を持ちます。
顆粒状突起は細かいがはっきりとしており、掌のほぼ全体に分布しています。
3-b.ムラサキオカヤドカリ
左鋏脚掌上部に斜向顆粒列を持ちます。
顆粒状突起はやや粗いが掌の上部を中心に分布しており、中央部ではあまり目立ちません。
顆粒状突起の先端部が黒くなる場合もあります<画像16>
3-c.サキシマオカヤドカリ
左鋏脚掌上部に斜向顆粒列を持ちます。
顆粒状突起はこのグループ中最も粗く大きく、はっきりとしており掌全体を覆います。
生時の成体では、突起先端が白くなりよく目立ちます。<画像12>

ナキオカヤドカリ

<画像13>ナキオカヤドカリ鋏脚。
細かな顆粒状突起が全体に散ばる。

ムラサキオカヤドカリ

<画像14>ムラサキオカヤドカリ鋏脚。
掌部顆粒は少なく滑らかな感じ。

サキシマオカヤドカリ

<画像15>サキシマの眼。
よく見ると眼柄にも白色顆粒状突起がある。

ムラサキオカヤドカリ

<画像16>ムラサキオカヤドカリ脚部の顆粒状突起は
このように黒いものもいる。

<参考及び引用文献,web site>
(※1:池田啓総監修,大澤竜二ら編,2003,オカヤドカリ;週間天然記念物動物編42,小学館
(※2:沖縄県教育委員会文化課編,1987.あまん-オカヤドカリ生息実態調査報告-.緑林堂出版
(※3:”Heart Mitt Club”http://www.geocities.jp/tremolo36/landhmc/landhmc1.html
(※4:”陸寄居蟹研究室” http://www.tonycoenobita.com/
(※5: 朝倉彰,2004.ヤドカリ類の分類学、最近の話題. 海洋と生物, 26(1):83-89
(※6: Nakasone,Y,1988.Land hermit crabs from the Ryukyus,Japan,with a description of a new spacies from Philippines(Crustacea,Decapoda,Coenobitidae).Zoological science,5:165-178.
(※7:”フラワーべる”琉球王国の珍獣 オカヤドカリhttp://www.bidders.co.jp/user/2122155/yadokari/









次へ

甲殻類の部屋に戻る


[PR]女性が輝く公文の先生募集中!:全国で教室開設説明会開催