開拓者達に逢いに行く

〜南紀ミニ紀行〜




ムラサキオカヤドカリ

<画像1>南紀のムラサキオカヤドカリ。何年も越冬していると推察できる個体。(紀伊半島、2006.8月)

北限のオカヤドカリ

オカヤドカリというと、南の島のイメージが強いが、少数ながら本州、四国、九州にも分布している。
日本はオカヤドカリ類の分布の北限にあたり、つまり、これら日本本土の個体群は生息限界ぎりぎりの、いわば北限の個体群ということになる。 (緯度的には、近年大分県で見つかった個体が最北、といわれている) 大分は最北じゃないとのご指摘により削除
数年前から夏になると南紀の数ヶ所でオカヤドカリ類に逢いに行くのだが、 今回はそんな場所の1つ、紀伊半島某所のムラサキオカヤドカリを紹介してみようと思う。

深夜の南紀へ

8月中旬のある深夜、国道をひた走り、前から目をつけていた場所に到着した。
潮は中潮だったが、この夜の南紀は蒸し暑く殆ど無風で、オカヤドカリの観察にはもってこいと思われた。
ここはかなり自然な状態で海岸線が残されており、堤防道路もない。
道路の終点で車を止めて歩く事10分程。砂浜からハマヒルガオの群落が帯状に存在し、潅木が茂る海岸林へとなだらかに移行している。
アダンやクサトベラはないものの、足元には化石化した珊瑚が転がっており沖縄と錯覚するような風景だ。
早速懐中電灯の明かりを頼りに砂浜を捜すと、ビーチを100mくらい進んだ少し岩場が混じる所で、自転車のタイヤの跡のような模様が砂上に見つかった。<画像3>
これがオカヤドカリの足跡で、僕はこれをタイヤマークと勝手に呼んでいるが、これがあればもう見つけたも同然なのだ。
少なくとも確実にオカヤドカリはここに存在している。それまで半信半疑だったが、一気にやる気が出てきた。
さらに付近を見て回ると、いくつもの幅の違う足跡も発見した。中にはかなり幅の広い(=大型個体の足跡)ものもある。
しかし、簡単に見つかるとたかを括っていたものの、既に活動時間が終わってしまっているのか、なかなか生体を見出す事はできなかった。
1通り足跡のある辺りの砂浜を見て回ったが全くいる様子がないので、その奥に広がる潅木の藪へと捜索範囲を広げる。
藪の中はさらに蒸し暑いし、蚊が多い。
その場でしゃがみ込み、ライトを消して息を殺し、耳を澄ます。
藪の中は動き辛いので、やたらと捜し回るよりはこの方が効率的なのだ。もっとも、オカヤドカリが動き回っていてくれればの話だが。
汗が頬を伝うのがわかる。

ガサ。

音のする方にライトを向けると、カクベンケイガニが逃げ支度に入った所だった。
そんな事を数回繰り返した後、遂に2頭のオカヤドカリがライトに照らされた。<画像4>
ムラサキオカヤドカリだ。
その後、その付近でさらに4頭の成体サイズを発見するが、全ての個体がムラサキオカヤドカリであった。
夜なので撮影条件が悪いが、夜が明けるまではまだ数時間ある。 折角来たからには明るい所で撮影したいが、いかんせんオカヤドカリは採集禁止、 一旦車に戻り、どうかいなくなりませんようにと祈るような気持ちで朝を待った。
目が醒めた時には、もうかなり太陽は昇っていた。 急いで戻ると、あり難い事にまださっきの場所に2頭残っていたので急いで撮影し、家路に就いた。

南紀には、このように僅かではあるが確かにオカヤドカリ類が存在し、越冬している。
だが、彼等は冬の寒さなど生存ギリギリの条件と闘いながら生き長らえてきた開拓者とも言える。
この最果ての地で健気に生きるオカヤドカリ達の住める環境を、我々は次の世代に伝える義務があると思った。


<画像2>一路南紀へ。
(紀伊半島、2006.9月)


<画像3>這い跡発見。
(紀伊半島、2006.9月)


<画像4>いたいた、本州産。
(紀伊半島、2006.9月)









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